てたちしはす・・物事が大きく動く前兆.
12年前の師走のことでした.新卒で働いていた頃、修士出だったので、若い頃に志した研究主題で博士に行くと決め、これと思う研究室まで一度見学しに行き、翌日職場を辞め、翌週願書を出しました.腹積りは極まっていました.用意していた未発表の実績一覧と研究計画を提出しました.教授は不在でお会いすることはありませんでしたが、見事、合格の通知が届きました.
勇んで引っ越しを済ませ、生活を整えていると、大学まで呼び出されたので、急々と向かうと、なんと合格取消の手続きを済ませられました.なんでも、要綱に記されていた通り、TOEICの試験が必須だったのですが、わたしの提出した試験種別はIPで、注意書きにIPは無効、と米印で小さく釈っていたのです.わたしは一行飛ばしたのでした.
その後、研究実績が未発表であったことから、これをもって起業しようと奔走しました.半分自棄でした.当然、焦りと憔悴で途絶し、社会から一旦退場し、受洗、結婚、転居、主夫と行路は進んでいったのでした.それはそれで満額の幸せでしたし、強度は穏やかになったといえ、それは今も続いています.
しかし、思うのです.教授はじめ、研究室の皆様、大学事務員の方々、あるいは大学関係者の方々こそ、大いに奔走させてしまったのではないかと.わたしはその教授の本で大いに学んだので、実際に教えを乞うつもりでしたが、わたしは師を走らせてしまったようでした.そういえば、合格取消の日、最後に書類を手渡しくださり、丁重な礼を以て帰してくださった大学院生は、今年までに書籍を幾冊も出版し、動画にも出演していたので、わたしはそのお名前にすぐ判応したとともに、この人こそ、教授の本当の弟子だったのだ、と心底納得したのでした.