他人から見て恥ずかしくなるような行動や言動を犯しても、気づかずに笑っているような人の様子。場違いなことをしても、その場の空気を読めずに、ずれたことしてしまう様子。
――平成の若者言葉
甚い人は、いる。ほかならぬ私がそんな人のひとりだった。今でもときどき甚いことをしてしまう。私が甚いと感じることができたのは、自分のほかに甚い人を見かけたからだ。
彼は電車に乗るや否や、窓側に急いで走って立ち、歌いだした。昭和時代に流行した曲のようだが、古くて知らないしわからない。そして、足を団々と鳴らし、踊りだしたのだ。そう、この電車は休日の旅客列車、田舎の山を車窓に見ていた旅の風情はぶちこわしだ。彼は温泉宿で有名な駅で浮々と降りて行った。歌ったまま、その旋律に乗りながら。
あまりにも空気を読めない、読めなすぎる。too much.
度が過ぎていることが、[いた-い] の本質ではないだろうか。空気を読めないとは、周囲から見て普通でないほど恥ずかしく感じる様子、つまり度が過ぎて異なっている様子だろう。ということで、適わしい漢字が存在する。「甚だ(はなは-だ)」「甚く(いた-く)」で使う「甚」である。
「甚く」とは、程度が激しいことを意味する語だ。度が過ぎている様子を表す語として、訓みの語呂までちょうどよく、ぴったりだ。
電車で踊って降りた彼は甚かった。彼は甚だ普通から異なった珍しい性格だった。その珍しさは才能さえ感じさせた。そんな意味にもなる感じがする。